NEW!労働基準法19条の解雇制限とは?分かりやすく解説!

労働基準法
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監修者

ミーティア法律事務所 代表弁護士。日本労働弁護団所属。複数の中小企業の顧問弁護士として、人事・労務、企業法務等の案件を担当。

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 仕事中の事故により療養している時期、または、出産前後の大切な時期に、会社から「明日から来なくていい」「解雇する」と言われることがあります。そのようなことを言われたら、労働者は治療や出産に専念できないばかりか、今後の収入がなくなってしまいます。

 このような事態を防ぐため、労働基準法第19条は、特定の期間において、使用者が解雇を行うことを禁止する「解雇制限」のルールを定めています。

 本記事では、労働事件を扱う弁護士の視点から、労働基準法19条の基本的な仕組みや保護される範囲、「療養のための休業」の判断基準、例外的に解雇が認められる場合、さらには実務上トラブルになりやすい「懲戒解雇への適用」や「休職期間満了に伴う当然退職(自動退職)」との関係に至るまで、裁判例を交えて分かりやすく徹底解説します。

1. 労働基準法19条(解雇制限)の基本原則と条文

 まずは、労働基準法第19条がどのように定められているのか、条文の文言から確認しましょう。

労働基準法第19条の条文

第19条(解雇制限)

  1. 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
  2. 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。
法律が定める「2つの解雇制限期間」

 労働基準法19条1項本文は、以下の2つの期間について解雇を絶対的に禁止しています。

  1. 業務上の傷病による療養休業期間 + その後30日間
    労働者が業務上の事由によって負傷し、または病気(業務上疾病)にかかり、その療養のために休業している期間と、休業が明けて復帰した後の30日間です。
  2. 産前産後休業期間 + その後30日間
    労働基準法第65条の規定に基づく産前休業(原則出産予定日の6週間前、多胎妊娠は14週間前)および産後休業(出産翌日から8週間)を取得している期間と、その後30日間です。
規定の趣旨(なぜ解雇が厳しく制限されるのか)

 業務上の災害によって負傷・発病した労働者は、使用者の支配下にある業務に内在する危険が現実化したことによって就労できなくなっています。このような状態にある労働者が労務を提供できないことは、自己の責めに帰すべき債務不履行ではありません。

 それにもかかわらず解雇を許してしまえば、労働者は、生活の糧を奪われるだけでなく、療養中に新たな就職先を探す必要が出てきます。

そのため、労働基準法19条は、安心して療養を行えるように配慮して、解雇を制限した強行法規です。

違反した場合のペナルティ

 労働基準法第19条は強行法規であるため、この規定に違反してなされた解雇の意思表示は私法上当然に無効となります。

 さらに、使用者に対しては6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金という厳しい刑事罰が科される可能性があります(労働基準法119条1号)。

2. 解雇制限が適用される範囲と除外されるケース

 労働基準法19条の解雇制限は、あらゆる休職や病気に適用されるわけではありません。保護の対象となる範囲と、対象外となるケースを正確に区別することが実務上極めて重要です。

① 業務外の私傷病や「通勤災害」は対象外

 労働基準法19条が保護の対象としているのは、あくまで「業務上」の負傷・疾病に限られます。

  • 私傷病(業務外の病気・怪我):プライベートでの事故や病気による休業については、労働基準法19条の解雇制限は適用されません。
  • 通勤災害:通勤途中の事故等による怪我(労災保険法上の通勤災害)についても、労働基準法上の解雇制限の対象には含まれていません。
    ※ただし、私傷病や通勤災害による解雇であっても、労働契約法第16条の解雇権濫用法理による合理性・相当性の審査は当然に受けることになります。
② 派遣労働者・出向者・副業兼業の取扱い

働き方が多様化する中で、誰に対して解雇制限が適用されるかも問題となります。

  • 派遣労働者の場合:派遣先での業務に起因して労働者が業務上疾病にかかった場合、労働契約関係が存在する派遣元に解雇制限が適用されます。
  • 在籍出向の場合:出向先での業務に起因して疾病にかかった場合、身分関係を保持している出向元に解雇制限が適用されます。
  • 副業・兼業の場合:副業先での疾病について、本業側の使用者に19条の解雇制限は適用されません。
③ 懲戒解雇や普通解雇・整理解雇との関係

 労働基準法19条1項は「解雇してはならない」と定めており、解雇の種類を限定していません。

 したがって、整理解雇(リストラ)や能力不足を理由とする普通解雇はもちろんのこと、重大な規律違反などを理由とする「懲戒解雇」であっても、解雇制限期間中に行うことは許されません(東京高判平成29年5月17日)。たとえ解雇に足る懲戒事由が存在していたとしても、業務上の療養休業期間中およびその後30日間に解雇通知を行うことは法律上禁止されます。

④ 「解雇予告」との関係

 使用者が「解雇予告(労働基準法20条)」を行うこと自体は、直ちに契約終了を確定させる解雇そのものではないため、19条の解雇制限期間中であっても予告の通知を行うこと自体は禁止されていないとするのが一般的な解釈です。

 ただし、予告期間が満了して解雇の効力が発生する日(終了日)が解雇制限期間(休業中およびその後30日間)にかかることは許されません。つまり、この場合の解雇は、制限期間が経過した後に効力が発生する形をとらなければなりません。

3. 「療養のために休業する期間」の実務上の判断基準

 労働基準法19条の適用において、最も激しく争われるのが「労働者が業務上の傷病の療養のために休業しているといえるか」という実質的な判断です。

(1) 当事者の主観的認識と客観的業務起因性

 会社と労働者の間で、当初は「私傷病」として扱われ、就業規則に基づく私傷病休職に入っていたような場合であっても、後から「実は業務上の病気(過重労働によるうつ病など)だった」と主張されることがあります。このような場合に解雇制限が及ぶのかが問題となります。

 この点について、労働者が解雇直前まで労災申請を行っておらず、当事者双方が私傷病であると認識して取り扱っていたとしても、労働基準法19条が強行法規である以上、「業務上」の疾病に該当するか否かは客観的に判断されるべきであり、当事者の主観的な認識によって左右されるものではないと考えられています。

 客観的に業務起因性が認められる疾病であれば、会社が私傷病休職として扱っていたとしても、19条の解雇制限が適用されます。

(2) 「一部休業(通院など)」も含まれるか?

 仕事を完全に休んでいる「全部休業」でなければ解雇制限は適用されないのでしょうか。

 裁判例では、全部休業に限らず、通院等のために一定時間休業する「一部休業」であっても、療養のための休業に含まれるとしたものがあります(東京地裁八王子支判平成17年3月16日)。

 ただし、労働基準法19条の趣旨は、被災労働者の解雇を制限して生活と再就職の機会を確保することにあるため、後述するように「症状が固定(治癒)」した後の単なる経過観察等の通院については、同条の「療養のための休業」には含まれないと判断されています(同八王子支判平成17年3月16日)。

(3) 現実の休業実績がない場合の直接適用・類推適用の否定

 「本来は身体的・精神的に欠勤して療養すべきであった」と主張されることがあります。休業の実績がなくても19条が適用されるのでしょうか。

 裁判所は、所定労働日に所定の勤務実績(7.5時間以上勤務など)があり、現実の休業実績が認められない事案において、「労働基準法19条1項はあくまで業務上の傷病の『療養のために休業する期間』の解雇を禁止している規定であることは文理上明らかである」として、形式的・実質的に休業していない以上、同条項の直接適用も類推適用も認められないと判示しています(東京地判平成29年12月15日)。

(4) 「治癒(症状固定)」による解雇制限の解除

 労働基準法19条1項が制限しているのは「療養のための休業」です。

 したがって、傷病の症状が固定し、これ以上医療を行っても医療効果が期待できない状態(労災保険法上の「治癒」・症状固定)に達した場合には、もはや「療養」のための休業とはいえないため、症状固定の時点をもって労働基準法19条の解雇制限は解除されます(光洋運輸事件・名古屋地判平成元年7月28日、名古屋埠頭事件・名古屋地判平成2年4月27日、大阪築港運輸事件・大阪地決平成2年8月31日)。

 休業と傷病との相当因果関係や症状固定の有無は、主として医師の医学的診断に基づいて厳格に判断されます。

4. 解雇制限が解除される2つの例外(19条1項ただし書)

 絶対的とも思える労働基準法19条の解雇制限ですが、法律は使用者の事業継続の観点等を考慮し、例外的に解雇制限を解除する2つの事由を定めています(19条1項ただし書)。

例外①:打切補償の支払(労働基準法81条)

 労働者が業務上の負傷または疾病にかかり、療養開始後3年を経過しても治らない場合、使用者が平均賃金の1200日分の「打切補償」を支払うことによって、解雇制限が解除され、当該労働者を解雇することが可能となります(労基法19条1項ただし書前段、81条)。

打切補償制度の趣旨

 打切補償とは、業務上の傷病に対する事業主の補償義務を永久的なものとせず、3年を経過した時点でまとまった補償を行うことで、その後の事業主の補償責任を免責させ、雇用関係の清算を可能にする制度です。

労災保険法による打切補償の「みなし」

 実務上、企業が自己資金から1200日分の打切補償を直接支払うケースは多くありません。

 労働者災害補償保険法(労災保険法)第19条により、療養開始後3年を経過した日において労災保険から「傷病補償年金」の支給を受けている場合、または同日後において傷病補償年金の支給を受けることとなった場合には、使用者は打切補償を支払ったものとみなされ、同様に解雇制限が解除されます。

 したがって、休業が長期化している場合、会社側が労働者の労災申請に協力し、労基署長による傷病補償年金の支給決定を受けることが、適法に解雇制限を解くための重要な実務的ルートとなります。

労働契約法16条(解雇権濫用法理)との関係

 打切補償を支払えば、どのような場合でも無条件に解雇が有効になるわけではありません。

 裁判例(東京高判平成22年9月16日)では、打切補償の要件を満たした場合、原則として客観的合理性と社会通念上の相当性が認められるとしつつも、「雇用者側が労働者を打切補償により解雇することを意図し、業務上の疾病の回復のための配慮を全く欠いていたというような、打切補償制度の濫用ともいうべき特段の事情が認められる場合」には、解雇権の濫用として解雇が無効になると判示されています。

例外②:天災事変その他やむを得ない事由による事業継続の不能

 地震、火災、水害等の天災事変や、これに準ずる不可抗力によって事業の継続が不可能となった場合にも、解雇制限は解除されます(19条1項ただし書後段)。

  • 行政官庁の認定が必須:この例外を適用して解雇を行うためには、事前に所轄労働基準監督署長(行政官庁)の認定を受けなければなりません(19条2項)。
  • 適用要件の厳格さ:単なる会社の業績悪化や経営不振、破産などは「やむを得ない事由」には該当せず、不可抗力といえるレベルの破局的事情が求められます。

5. 休職期間満了に伴う「当然退職(自動退職)」と19条の類推適用

 実務上、解雇そのものよりもはるかに頻繁に紛争となるのが、就業規則に基づく「休職期間満了に伴う当然退職(自動退職)」の扱いです。

 多くの企業の就業規則には、「私傷病休職期間が満了しても復職できないときは、満了日をもって当然退職(または自動退職)とする」旨の規定が置かれています。

 もし、労働者の休職の原因となった病気(うつ病や適応障害などの精神疾患)が、実は上司のパワーハラスメントや過重労働による「業務上」の疾病であった場合、会社は「これは解雇ではなく自動退職だから19条の解雇制限は関係ない」と主張できるのでしょうか。

裁判例の確立した枠組み:当然退職扱いの「無効」

 裁判実務では、このような会社の形式的な主張は厳しく否定されています。

① 大阪高判平成24年12月13日

労働者が業務上の精神疾患(うつ病等)を発症して休業していた事案において、会社が休職期間満了を理由として行った退職扱いに対し、裁判所は以下のように判示しました。

  • 労基法19条1項が解雇を制限している趣旨は、業務上の傷病により労務提供できない労働者を保護し、安心して療養を行えるように配慮した点にある。
  • 精神疾患の発症と業務との間に相当因果関係が認められ「業務上の疾病」である以上、労働基準法19条1項の類推適用により、休職期間満了に伴う退職扱いは無効である。

② 東京地判平成29年3月13日

 上司からの執拗な退職強要や罵詈雑言等の違法行為により、労働者のうつ病が増悪・悪化して就労不能に至った事案です。

東京地方裁判所は、

  1. 労働者は違法な退職強要行為等によりうつ病が悪化して就業できなくなったものであり、就業規則の「業務外の傷病」には当たらない、
  2. 労働基準法第19条第1項の趣旨に照らすと、休職期間満了に伴う当然退職扱いは許されない(無効である)、
    と明確に判示しました。
民法536条2項(バックペイ)に基づく賃金請求権

 さらに重要な点として、会社の違法な行為によって労働者が就労不能となった以上、休職期間中および退職扱い後の労務不提供は「使用者の責めに帰すべき事由」によるものであると判断されます。

 その結果、労働者は民法第536条第2項に基づき、働いていなかった期間中の賃金(バックペイ)の全額を会社に対して請求できることとなります。

 なお、上記東京地判平成29年判決では、労働者が生活のために傷病手当金を受給していたとしても、それをもって「業務外の傷病であることを自認した」とか「賃金請求権を失う」ことにはならないと判断されています。

6. まとめ:労使双方が押さえておくべきチェックポイント

 労働基準法第19条は、労働者の健康と生活を守るための極めて強力な防壁です。最後に、労働者・使用者双方がトラブルを防ぐために留意すべきポイントを整理します。

労働者側のチェックポイント
  1. 怪我や病気の「原因」を客観的に記録する
    長時間労働、パワハラ、職場環境の劣悪さなどが原因で精神疾患や心身の不調を発症した場合、タイムカード、業務メール、面談記録、医師の診断書などをしっかり手元に残しておきましょう。
  2. 安易に「私傷病休職」や「退職届」に応じない
    業務上の過重労働やハラスメントが原因であるにもかかわらず、会社から「私傷病休職に入り、治らなければ自動退職だ」と言われたり、退職届の提出を求められたりしても、安易に同意してはいけません。速やかに労災申請を行い、弁護士等の専門家に相談することが大切です。
  3. 退職扱いになっても地位確認・賃金請求が可能
    業務上の傷病であるにもかかわらず会社から一方的に「休職期間満了で退職」と処理された場合でも、19条の趣旨・類推適用に基づき、労働契約上の地位確認および未払賃金の支払いを裁判上で求めることができます。
企業(使用者)側のチェックポイント
  1. 不調の原因を「私傷病」と決めつけない
    メンタルヘルス不調等で欠勤する従業員について、業務上の負荷(残業時間や過重なノルマ、ハラスメントの有無)がなかったかを慎重に調査・把握しなければなりません。客観的に業務起因性がある場合、会社が私傷病として休職させていても解雇や退職扱いは無効となります。
  2. 解雇制限期間中の解雇処分は絶対に行わない
    療養休業中および復帰後30日間の解雇は、普通解雇だけでなく懲戒解雇であっても法律上無効であり、刑事罰のリスクを伴います。
  3. 長期休業時の適法な清算手続き(打切補償・傷病補償年金)を検討する
    休業が3年を超えて長期化している場合は、一方的に解雇・退職扱いにするのではなく、労災保険の傷病補償年金の受給状況を確認する、あるいは適法な打切補償の要件を整えるなど、法に基づいた慎重なプロセスを踏む必要があります。

 労働基準法19条を正しく理解することは、労働者にとっては自身の雇用と生活を守る武器となり、企業にとっては違法な解雇による重大な紛争・損害賠償リスクを回避するための不可欠な知識となります。

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