NEW!普通解雇とは?分かりやすく解説!

労働契約法
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監修者

ミーティア法律事務所 代表弁護士。日本労働弁護団所属。複数の中小企業の顧問弁護士として、人事・労務、企業法務等の案件を担当。

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 会社から突然「明日から来なくていい」「解雇する」と言われたら、労働者は生活の基盤を奪われ、路頭に迷ってしまいます。また、人事担当者にとっても「問題のある社員を解雇したいが、裁判で訴えられたら負けてしまうのではないか」という不安は常に付きまといます。

 日本の労働法において、会社が労働者を一方的に辞めさせる「解雇」には極めて厳しい制約が課されています。一口に解雇といっても、会社の倒産危機などによる「整理解雇」や、重大な非違行為に対する制裁罰である「懲戒解雇」がありますが、それら以外の最も一般的な解雇の類型が「普通解雇」です。

 本記事では、労働事件を扱う弁護士の視点から、普通解雇の基本的な定義や法的根拠、労働契約法16条が定める「解雇権濫用法理」の客観的合理性・社会通念上の相当性の枠組み、能力不足や私傷病などの個別の解雇事由における実務上の判断基準、解雇予告手続(労基法20条)、そして裁判例の動向に至るまで徹底解説します。

1. 普通解雇の基本概念と解雇の類型

 まずは、解雇という行為の法律上の位置付けと、普通解雇が他の解雇とどのように異なるのかを整理しましょう。

(1) 解雇の法的性質:使用者による一方的な契約終了

 労働契約の終了事由には、労働者が自ら辞める「辞職」(民法627条1項等)、労使双方が合意して終了させる「合意解約(退職勧奨に応じる場合を含む)」、定年による「定年退職」、契約期間満了に伴う「雇止め」などがあります。 これらに対し、「解雇」とは、使用者が労働者の承諾を得ることなく、一方的な意思表示によって労働契約を将来に向かって解約することをいいます。労働者の承諾を要しない強力な行為であるからこそ、法律上、その有効性は厳格に審査されます。

(2) 解雇の3つの類型と「普通解雇」の位置付け

 解雇は、その理由や法的性質によって大きく以下の3つに分類されます。

  1. 普通解雇 整理解雇および懲戒解雇以外の解雇全般を指します。労働契約上の労務提供義務を十分に果たせないこと(能力不足、勤務成績不良、私傷病による就労不能)や、職場秩序を乱す行為(協調性欠如、業務命令違反など)を理由として、雇用関係を継続し難い場合に行われる解雇です。
  2. 整理解雇 労働者側に落ち度(帰責事由)がないにもかかわらず、会社の経営不振や事業縮小といった使用者側の経営上の必要性に基づき、人員削減のために行われる解雇です(※本記事では解説の対象外とします)。
  3. 懲戒解雇 労働者が就業規則上の服務規律や企業秩序に重大に違反したこと(横領、重大な犯罪行為、悪質なハラスメント等)に対し、制裁罰(秩序罰)として行われる解雇です。
(3) 普通解雇と懲戒解雇の根本的な違い

 実務上、普通解雇と懲戒解雇は混同されがちですが、両者は法的性質が明確に異なります。

  • 法的性質:普通解雇は民法上の契約解約権の行使であるのに対し、懲戒解雇は企業秩序違反に対する制裁罰です。
  • 就業規則の定めの要否:懲戒解雇を行うためには、罪刑法定主義に類似する観点から、あらかじめ就業規則に懲戒の種別および懲戒事由が明定されていなければなりません。これに対し、普通解雇は労働契約に当然に付随する解約権の行使であるため、就業規則の定めが絶対に必要不可欠とまでは解されていません(ただし、常時10人以上の労働者を使用する事業場では労基法89条により退職・解雇事由の記載が義務付けられています)。
  • 無効行為の転換の可否:裁判例(東京地判平成24年11月30日・日本通信事件、大阪地判平成25年6月21日等)において、懲戒解雇が客観的合理性を欠いて無効となった場合、それを事後的に普通解雇へ当然に転換することは原則として許されないと解されています。使用者が普通解雇としての有効性も争いたい場合は、予備的に普通解雇の意思表示を行っておく必要があります。

2. 解雇権濫用の法理(労働契約法16条)

 「会社は自由に労働者をクビにできる」という考えは、現在の日本の労働法においては完全に誤りです。その最大の法的根拠が労働契約法第16条です。

(1) 労働契約法第16条の条文

労働契約法第16条(解雇) 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 この規定は、かつて最高裁判所の判例法理(日本食塩製造事件・最二小判昭和50年4月25日等)として確立していた「解雇権濫用の法理」をそのまま成文化したものです。期間の定めのない労働契約(無期雇用)におけるすべての解雇に適用されます。

(2) 2つのハードル:「客観的合理性」と「社会通念上の相当性」

 労働契約法16条に基づき、普通解雇が有効と認められるためには、次の2つの要件をいずれも満たす必要があります。

要件①:客観的に合理的な理由があること

 解雇の理由となる事実が客観的に存在し、かつその理由が労働契約の解消を正当化できる程度に重大なものである必要があります。使用者の主観的な嫌悪感や、単なる「社風に合わない気がする」といった曖昧な評価では到底足りません。事実に基づいた客観的な証拠(業務日報、ミスの記録、指導書の写しなど)によって裏付けられていることが必要です。

要件②:社会通念上相当であること

 仮に客観的な理由が存在するとしても、「解雇という最も重い処分を選択することが、社会常識に照らして妥当といえるか」が審査されます。 ここでは、以下の諸事情が総合的に考慮されます。

  • 労働者の落ち度(非違行為)の程度や悪質性
  • 労働者のこれまでの勤務態度、勤続年数、過去の懲戒歴
  • 使用者が解雇を回避するための措置(配置転換、教育訓練、警告等)を尽くしたか
  • 同種の行為を行った他の従業員との処遇の均衡(公平性)
  • 解雇の手続が適正に履践されたか(労働者に弁明の機会が与えられたか)

 解雇は労働者の生活基盤を奪う最終手段(last resort)であるため、解雇を回避するための手段を十分に尽くしていない場合、社会通念上の相当性を欠き、無効と判断される可能性が極めて高くなります。

(3) 主張立証責任の所在

 裁判実務において、解雇権濫用の要件に関する主張立証責任は、解雇を行った使用者側(会社側)が負います。 すなわち、会社側が「解雇理由となる事実が客観的に存在すること」および「それが解雇処分に値するほど重大であり、解雇の選択が社会的相当性を有すること」を証拠によって立証しなければならず、立証が尽くされない場合は解雇が無効となります。

(4) 有期労働契約(契約社員等)における厳格な解雇制限(労働契約法17条1項)

 期間の定めのある労働契約(有期雇用契約)の場合、無期雇用の労働者よりもさらに厳しい制限が課されます。

労働契約法第17条第1項 使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。

 有期労働契約は、「定められた期間中は相互に雇用を継続する」という強い合意のもとに成り立っているため、契約期間の途中で解雇するためには、労働契約法16条の要件を超える「契約期間の満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由」が必要とされます。したがって、有期労働契約の中途解雇が有効と認められるハードルは極めて高いものとなります。

3. 法律上の解雇禁止・制限事由

 解雇権濫用法理(労契法16条)による一般的な制限に加え、個別の法律によって解雇が絶対的または強力に禁止されているケースが存在します。これらに違反する解雇は、客観的合理性の有無を問わず、法律違反として当然に無効となります。

  • 業務上の傷病休業・産前産後休業中の解雇制限(労基法19条1項) 労働者が業務上の負傷・疾病により療養のため休業する期間およびその後30日間、ならびに産前産後休業(労基法65条)を取得する期間およびその後30日間の解雇は原則禁止されます。
  • 国籍・信条・社会的身分による差別的解雇の禁止(労基法3条)
  • 男女雇用機会均等法による解雇禁止 性別を理由とする解雇(均等法6条4号)、女性労働者の婚姻、妊娠、出産、産前産後休業の取得等を理由とする解雇(均等法9条2項・3項)は禁止されます。
  • 育児・介護休業の取得等を理由とする解雇禁止(育児介護休業法10条、16条等)
  • 労働組合活動を理由とする不当労働行為としての解雇禁止(労組法7条1号・4号)
  • 内部告発(公益通報)を理由とする解雇禁止(公益通報者保護法3条)
  • 労働基準監督署等への申告を理由とする解雇禁止(労基法104条2項、労安法97条2項)

4. 普通解雇の具体的類型と裁判実務における判断基準

 実務上、普通解雇の理由として争われる事由は多岐にわたります。ここでは代表的な類型について、裁判例の判断枠組みを解説します。

(1) 能力不足・勤務成績不良

 実務で最もトラブルになりやすいのが、「仕事ができない」「期待した成果を出せない」という理由での普通解雇です。

① 一般職・新卒採用の場合の判断枠組み

 一般的な正社員(職種や地位を限定せずに新卒等で採用された社員)の場合、裁判所は単に能力が低いというだけでは解雇を認めません。 リーディングケースとして知られる東京地決平成11年10月15日(セガ・エンタープライゼス事件)では、能力不足を理由とする解雇の有効性について以下の厳格な基準が示されました。

  • 労働者の能力・適性が著しく劣っており、職責を果たすことが到底できない状態にあること
  • 使用者が教育訓練や業務指導を行っても、今後の能力向上・改善の見込みが全くないこと
  • 配置転換(配転)など、他の職務に就かせる余地(解雇回避の可能性)がないこと

 会社側が改善のための具体的な指導(面談、注意書の交付等)を怠っていたり、業務のやり方を十分に教えずに即座に解雇したような場合は、「改善の機会を与えていない」「解雇回避努力を怠った」として、ほぼ確実に解雇無効となります。

② 中途採用・役職や職種が特定されている場合(スペシャリスト・管理職)

 これに対し、特定の専門的スキル(高度なIT技術、語学力等)や上級管理職としてのマネジメント能力を期待され、高額な年俸・待遇で中途採用された労働者の場合、判断枠組みは相対的に緩やかになります。 契約上、特定の職務や能力が明確に前提とされているため、合意された能力や地位にふさわしい成果を著しく欠いており、それが客観的に証明できる場合には、一般職に比べて解雇回避措置(他部署への配転等)の義務の程度は軽減される傾向にあります。ただし、この場合であっても、会社が求めた成果水準が客観的に妥当なものであったか、成果が出せないことにつき会社側に起因する事情(サポート体制の不備など)がなかったかは厳格に吟味されます。

(2) 私傷病による労務提供不能(健康状態の悪化)

 病気やケガ(業務外の私傷病)によって働けなくなったことを理由とする解雇です。

① 就労不能の判断と「治癒」の概念

 労働者が契約上の労務提供を全く行えない状態(完全な就労不能)が続いている場合、労働契約の目的を達せられないため、解雇事由となり得ます。 しかし、休職制度が設けられている会社においては、まずは就業規則に従って私傷病休職を命じ、休職期間満了まで解雇を猶予すべき義務があります。休職制度を利用させずに直ちに解雇することは、権利濫用として無効となります。

② 段階的復帰や他業務への配置可能性(片山組事件の最高裁法理)

 休職期間満了時や復職を巡る局面において、重要な判例法理が最高裁平成10年4月9日第一小法廷判決(片山組事件)です。 最高裁は、職種を限定せずに雇用されている労働者について、従前の職務(原職)を通常どおり行えない場合であっても、

  1. 当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務が存在すること
  2. 労働者がその代替業務への労務提供を申し出ていること を満たす場合には、なお債務の本旨に従った労務提供の申出があると認められ、直ちに解雇することは許されない

 と判示しました。そのため会社は、デスクワークへの一時的な転換や軽易作業への就労など、復職や雇用継続のための配慮を尽くす必要があります。

③ メンタルヘルス不調に対する使用者の対応義務

 うつ病や適応障害などの精神疾患により欠勤を続けている労働者に対し、会社がどのような対応をとるべきかについて、最高裁平成24年4月27日第二小法廷判決(日本ヒューレット・パッカード事件)は、会社側に対し、「精神科医による健康診断を実施するなどした上で、その診断結果等に応じて治療を勧め、休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきである」と判示しました。会社が十分な医療的配慮を行わずに解雇に踏み切ることは許されません。

(3) 職場規律違反・業務命令違反・協調性欠如

 上司の正当な業務指示に従わないことや、無断欠勤の連続、同僚とのトラブルを頻発させるなどの協調性欠如も普通解雇の事由となり得ます。 ただし、単に「上司と意見が合わない」「同僚と口論になった」という程度では解雇は認められません。

  • 業務命令そのものが適法かつ合理的なものであったか
  • 注意や指導、戒告・減給などの軽微な懲戒処分を経て、段階的に是正を促したか
  • 違反行為により、会社の業務や職場環境に現実に重大な支障が生じたか といった点が厳しく問われます。事前の注意・指導を一切行わず、いきなり解雇通知を出すような措置は、相当性を欠くものとして無効とされます。
(4) 経歴詐称

 採用時に学歴、職歴、犯罪歴などを偽っていた場合です。 すべての経歴詐称が解雇理由になるわけではなく、「もし真実を知っていれば採用しなかったといえるほど、労働契約締結の基礎となる重要な事項について詐称したこと」が必要です。重要な職歴や資格を偽って高度な業務を任されたが実際には全く遂行できなかったケースなどでは解雇が有効と認められやすくなりますが、些細な経歴の差異程度では解雇は正当化されません。

(5) 私生活上の非違行為

 私生活上の犯罪行為(痴漢、盗撮、飲酒運転事故など)を理由とする解雇です。 原則として、使用者は労働者の私生活に介入することはできません。しかし、その行為が企業の社会的信用を著しく失墜させ、または企業秩序に直接重大な悪影響を及ぼすと客観的に評価される場合には、普通解雇が認められることがあります。事件の報道の有無、労働者の地位や職種、会社の事業規模や公共性の高さなどが考慮されます。

5. 解雇の手続ルール(解雇予告と手当)

 解雇の有効性(実体的な理由)とは別に、労働基準法は解雇を行う際の「手続」について厳格なルールを定めています。それが労働基準法第20条の「解雇予告」および「解雇予告手当」です。

(1) 原則:30日前の予告または予告手当の支払

労働基準法第20条第1項本文 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。

 使用者が労働者を解雇しようとする場合、原則として以下のいずれかの手続をとらなければなりません。

  1. 解雇する日の30日以上前に解雇の予告をする
  2. 30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を即時に支払って即時解雇する

 予告日数と予告手当を組み合わせて短縮することも可能です(労基法20条2項)。例えば、解雇の10日前に予告した場合は、不足する20日分(30日-10日)の平均賃金を解雇予告手当として支払えば適法となります。

(2) 解雇予告義務に違反した即時解雇の効力(細谷服装事件)

 もし会社が、30日前の予告もせず、予告手当も支払わずに労働者を「即時解雇」した場合はどうなるのでしょうか。 この点に関する最高裁のリーディング判例が、最高裁昭和35年3月11日第二小法廷判決(細谷服装事件)です。

最高裁は、予告手当を支払わない即時解雇の通知について、

  • 即時解雇としては効力を生じない
  • ただし、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、「通知後30日の期間を経過したとき」または「通知後に所定の予告手当を支払ったとき」のいずれかの時点から解雇としての効力を生ずる と判示しました。 つまり、手当不払いの即日解雇は、即時の解雇としては無効ですが、解雇通知そのものが完全に消滅するわけではなく、「30日後に効力が発生する解雇の予告」として読み替えられます。その結果、労働者は解雇通知から30日間は依然として従業員の身分にとどまることになり、会社はその30日間の賃金を全額支払わなければなりません。
(3) 解雇理由証明書の交付義務(労基法22条)

 労働者が解雇の理由について証明書の交付を請求した場合、使用者は遅滞なくこれを交付しなければなりません(労基法22条1項・2項)。 会社側は、「就業規則のどの条項に該当したのか」「どのような事実関係に基づいて解雇に至ったのか」を具体的に記載して証明書を交付する義務を負います。労働者側としては、解雇通知を受けたら直ちにこの証明書を請求し、会社が主張する解雇理由を早期に固定させることが、その後の紛争における極めて重要な防御策となります。

6. 普通解雇が無効となった場合の法律効果

 裁判や労働審判において、会社が行った普通解雇が「客観的合理性を欠き、社会通念上相当ではない(労働契約法16条違反)」として無効と判断された場合、どのような法律関係が生じるでしょうか。

(1) 労働契約上の地位の存続

 解雇が無効である以上、解雇の意思表示は法的な効力を持ちません。したがって、労働者と使用者との間の労働契約は何ら終了しておらず、労働者は依然として会社の従業員としての地位を保持し続けていることになります。

(2) バックペイ(未払賃金)の支払義務(民法536条2項)

 解雇が無効とされた場合、労働者は解雇された日から判決が確定して復職するまでの間、実際には出社して働いていません。 しかし、労働者が働けなかったのは「会社が違法・無効な解雇を行って就労を拒絶したため」であり、民法第536条第2項の「債権者(使用者)の責めに帰すべき事由」による労務提供不能に該当します。 そのため、労働者は会社に対し、解雇期間中に働いていれば得られたはずの賃金全額(バックペイ)に遅延損害金を付して請求することができます。訴訟が1年〜2年と長期化した場合、会社は数百万〜千数百万円規模の未払賃金を一括して支払わなければならず、極めて甚大な金銭的打撃を受けることになります。

(3) 中間収入の控除(民法536条2項ただし書と労基法12条・平均賃金)

 解雇期間中、労働者が生活のために他社でアルバイト等をして収入(中間収入)を得ていた場合、会社はその中間収入をバックペイから差し引く(控除する)ことができます。 ただし、最高裁判例(あけぼのタクシー事件・最一小判昭和62年4月2日等)により、会社が無制限に中間収入を控除することは許されず、労働基準法第12条に基づく平均賃金の6割(休業手当相当額)を下回る部分については控除できないとされています。すなわち、労働者は他社でどれだけ稼いでいたとしても、本来の給与の少なくとも6割は会社から確保できる仕組みとなっています。

7. まとめ:労使双方が知っておくべき実務チェックポイント

 普通解雇は、労働者にとっては生活の糧を奪われる死活問題であり、会社にとっても敗訴時のバックペイ支払いや社会的信用の失墜といった壊滅的なリスクを伴う劇薬です。最後に、労使双方が押さえておくべきチェックポイントを整理します。

労働者側のチェックポイント
  1. 安易に「退職届」を書かない 会社から「解雇されたくなければ自分から辞めろ」と迫られても、絶対にその場で退職届を提出してはいけません。自己都合退職として処理されると、解雇権濫用を争うことが困難になります。
  2. 「解雇理由証明書」を直ちに請求する 解雇を通告されたら、口頭でのやりとりに留めず、労働基準法22条に基づき「解雇理由証明書」の即時交付を書面で求めましょう。会社が後から解雇理由を都合よく付け足すことを防止できます。
  3. 客観的な証拠を収集・保全する 雇用契約書、就業規則、解雇通知書、タイムカードやシフト表、給与明細、業務上のメールや指示書、上司とのやりとりの録音などを確実に手元に確保しましょう。
  4. 「働く意思があること」を会社に伝える 解雇通知後も、会社に対して「解雇には納得できない。出社して労務を提供する用意がある」旨を内容証明郵便等で明確に通知しておきましょう。これはバックペイ(民法536条2項)を請求するための不可欠な前提となります。
企業(使用者)側のチェックポイント
  1. 就業規則の解雇事由を確認し、客観的証拠を揃える 就業規則上のどの解雇事由に該当するのか、そしてその理由を裏付ける客観的証拠(業務記録、指導履歴、ミスの頻度と損害等)が裁判所の厳格な審査に耐えうるレベルで揃っているかを精査してください。
  2. 教育・指導・警告のプロセスを履践したか 能力不足や勤務態度不良を理由とする場合、問題点を具体的に指摘し、改善のための具体的な機会(研修、業務指導、改善計画の策定等)を与えた実績が必要です。「注意したのに直らなかった」という証拠(面談記録、注意・指導書の交付等)を残しておかなければなりません。
  3. 配置転換など解雇回避努力を尽くしたか 現在の部署で成果が出ないからといって即解雇するのではなく、他部署への異動や職種変更、軽易な業務への転換など、会社内で雇用を継続できる可能性を最後まで模索したかが裁判で問われます。
  4. 解雇予告手続を適正に行う 解雇を行う場合は、少なくとも30日前の予告を行うか、即時解雇であれば解雇の意思表示と同時に30日分以上の解雇予告手当を確実に支払ってください。中途半端な即日解雇は、30日分の雇用継続リスクと紛争を招く原因となります。

 解雇に関する法ルールは非常に緻密かつ厳格であり、個別事案ごとの事情によって結論が大きく左右されます。解雇を通告された労働者の方や、社員の解雇を検討している企業経営者・人事担当者の方は、取り返しのつかない事態に陥る前に、労働法を専門とする弁護士へ早期に相談されることを強くお勧めします。

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